1984

約40年前、昭和59年の春、私は首都圏にある大学を受験した後、埼玉の親戚宅に長逗留させてもらいながら、その合格発表を待つ高校三年生だった。

 

叔母一家の住むマンションには、10歳以上年下の従姉弟が二人。愛らしい彼らに遊んでもらいながら、未知の土地である叔母宅界隈を散歩する日々だった。

 

その叔母は私が滞在中、退屈しないようにラジカセを貸してくれた。

 

そのラジカセのラジオを何気なく起動して、ダイヤルで放送局を合わせた瞬間、軽快かつ明るいロックチューンが流れてきた。その初めて聴く曲は、キーボードを多用していながらも圧倒的にロックだった。驚きながらも引き込まれつつ傾けていた耳に飛び込んできた歌声は、どう考えてもDavid Lee Roth。これが名曲"Jump"との邂逅だった。

 

そして無事に意中の大学での合格発表を見届けた後、四国の実家に戻った私は、すぐさまVan Halenの最新アルバム"1984"のLPレコードを買い求めた。

 

ロックギターの革命児Edward Van Halenが、3年前に鬼籍に入ってしまった為、Van Halenは文字通り伝説のバンドになってしまったが、"1984"が大ヒットする前の彼らに対する私の認識は、西海岸特有のカラッとしたストレートなサウンドの短い曲を得意とする、一流半のアメリカン・ハードロック・バンド、というものだった。

 

このアルバム"1984"で個人的に最も印象的な曲は、オープニングを飾るキーボード・インストゥルメンタル"1984"である。この曲に導かれるようにして"Jump"は始まるが、ロックバンドのアルバムにとってオープニング曲は、常に特別な意味を持つ。彼らのデビューアルバムから前作"Diver Down"までのイメージを払拭もしくは凌駕する為には、"1984""Jump"という曲の配列は必然だったのだろう。

 

私にとって"1984"は、人生の大きな節目に遭遇した応援歌だったのかもしれない、と最近iTunesを再生しながら思い返している。